連載小説「ミナミセンバフットサルチーム」 その1
最初はフットサルなんてやるつもりじゃなかった。
地元の強豪J1チームである「ガンバルンバ新大阪」をこよなく応援することを表向きの理由にして、
北堀江1丁目から、南船場4丁目、そして博労町4丁目界隈の半径500M位の一見客が滅多に来ないバーや大抵の地元民も知らないようなスナックみたいな飲食店に、夜な夜な集う中小の社長メンバーが、南船場というかつてのお洒落スポットの店主や社長に有りがちな若作りや遊び人感覚から派生した勘違いや、単なる40過ぎのおっさん、おばはんの酒の勢いから出た引っ込みのつかない負けん気から始まり、つまるところ個々に最近の若い奴には負けへんで俺らは!うちらは!
って片意地丸出しの世代闘争論がフットサルにすり変わり、いつの間にか街の酒場は変な盛り上がりをみせてしまった。
でも実はこれも表向きな結束の理由に過ぎなかった。
一番決定的であったのは、天敵である現お洒落スポット南堀江のイケメン店長チームにフットサルの勝負で、絶対に負けたくないというのが、真の結成の秘話であり、そしていやはや悲話というべき事件がそこにはあったのだ。
その発端とは?
南船場のとあるプロダクションの社長ナカやんが、南船場と堀江の境界線にある「なかよ卯」のちょっと可愛い新人店員に恋をして、それから足繁く毎日通いつめて、19カ月もかけてやっとのことで、そのちょい可愛い卯ギャルにメールを教えて貰ったという。
その間に新人卯ギャルはベテランになり、バイト副責任者助手にまで昇進し、更にギャルと茶髪を卒業し黒髪の大人な女性に変貌しようとしていた。
またビックリなのは彼女の時給が270円も上がったことである。
それには確実な裏付けがあった。
実は彼女が出勤している時間の売上が毎回確実に良いらしい。
というのも驚くなかれ、ナカやんは卯女が店に居る時に、「牛丼1万円分お持ち帰り」という注文を延べ427回も繰返していたからだ。
ナカやんの会社は彼の名刺を見る限り、札幌、東京、名古屋、福岡、沖縄にも支店があるから見た目は、まあまあ大きそうなプロダクションなのだが、実は従業員とバイト入れても4人しかいない。というか、失礼な言い方になるが彼の仕事の内容的にはそれでもスタッフが多い位で、バイトの大学生においては、牛丼を食べてるとこしか見たことがないって噂になってるし、相撲部で大食いだから採用になったってのは事実であろう。
一番ビックリなのは卯女が勤務しているかどうかを調べ、ナカやんに連絡するのも相撲部の仕事であった。
すなわち427回のナカやんの牛お持ち帰り回数は、卯女の19カ月間の出勤日数と一致しているとも言われている。
牛丼にしても名刺の件にしても、ナカやんはかなりのレベルの見栄張りなのだが、彼の嫌みのないキャラや細目で眉毛の下がった丸顔の不細工加減が、彼の人間性を現してるようで、界隈では彼の悪口を聞くことは無かった。