連載小説「ミナミセンバフットサルチーム」その2
その2
ある日そんな街のB級な人気者ナカやん社長が、
めっきり「なかよ卯」に行ってないという噂が広まり、酒場にも来なくなったので
「どうやらカネが底をついた」
「こないだの合計18万の飲み代を払って色々反省したんじゃないか」
「それナカやんカネないやん」
などと最初のうちは適当に笑っていたのだが、
独身貴族で先週新古車の511万のベンツをキャッシュで買ったナカやんが、訳ありの言わば19カ月間日払いの427万ローンで金欠にはならないんじゃないカネ…という、いとも簡単な結論におさまり、この件には別の何かがあると一同に認識した。
ナカやんは顔に似合わず見栄張りのええ格好しいだから、そのことなどについてあまり触れないので、皆で集まって考えた結果、深夜になった酒場に相撲部を呼び出して事情を聞くことにした。
南船場で一番老舗のスナック風イタリアンバーである「オリル」に界隈を代表する特命精鋭メンバー通称「南船場ケーサツ(計札)」が集まりマスターのブンちゃん仕切りのもと、ナカやんがなかよ卯に最近行ってない理由や相変わらず新地通いはしてるのに南船場の酒場に顔を出さなくなった件などを単刀直入に聞いた。
すると相撲部から意外な話が
「実は来月末で僕バイト辞めます。社長にも悪いし…自分のせいでもあるし、まだ社長には正式に言ってないんですが…やはり…」
皆一同にやっぱりこのご時世やからカネのことかぁ~みたいな空気を漂わせながらも…あえて元気のない相撲部に街のリーダーブンちゃんが少し鋭く聞いてみた。
「辞める経緯は分からへんけど、君のせいってどういうこと?」
「実は……」
ある日相撲部は、独断で社長ナカやんに気に入られようという真面目な気持ちから、卯女の趣味や好きなモノを調べる為に「なかよ卯」から仕事上がりの卯女を追いかけて尾行した。明らかにエスカレートした過剰残業である。
すると卯女はあみだ池、新なにわを越え大阪ドーム近くのフットサル場に入っていった。そして相撲部は社長の好きなサッカーを少しでも勉強しようと思うのと興味本意もありフットサルを見学することにした。
で、そこで見たモノは、なんと卯女がジャージに着替えて
フットサルチームの
マネージャーをしてる
という大スクープに遭遇したのだった。
しかも小洒落たイケメン揃いのメンバーが集まるチームに。
それはまさにハイエナに囲まれたバンビちゃんのように見えたらしい。
そして相撲部は泣きそうになりながらもお世話になっているナカやん社長に忠誠を誓うべく、これまた独断でさらなる残業を決行し、フットサルが終わるまではとりあえず腹ごしらえにフットサル場と隣接した「びっくりステーキ」で食べ放題ステーキを食いまくり、フットサル場の灯りが消えそうになると、帰宅する卯女をまたさらに尾行した。
すると驚くなかれ
卯女は独りではなくフットサルチームのイケメンと一緒に帰っていたのだった。
しかもギュッと手を繋ぎながら…
信号待ちではキスまでしていたらしい
そして北堀江4丁目の長堀通り近くのマンションに一緒に入っていったらしい。
あまりの出来事に相撲部は大泣きしたという。
それから相撲部は色々と悩み考えた挙げ句、それをナカやんに連絡せずにしばらくは黙っていることにした。
もしかしてイケメンと卯女がひょっとしたら別れることも有るだろう、そしてこれから先にまだナカやんにチャンスが来るかもしれないと願う方向に相撲部は考え始めた。
「なるほどね~それで分かった!それでそれから調査していくうちにやっぱりナカやんには脈は無いと判断して、お役御免と悟って決意をした訳かぁ!」とカラオケパブを営む宇多田が語りだし、皆その話に一定の相槌を打った。
「いやいや全然違います。それ位までは、まだ自分さえ黙ってれば…と思っていたんですが…」と相撲部は泣きそうな顔つきで新たな展開がありそうな話を始めた。
その2終わり