ドイツ・スポーツフリーランサー GENGO SETA OFFICIAL BLOG 頑張るときはいつも今

GENGO SETA [SPORTS FREELANCER in Germany]

Fortuna Düsseldorf
Birthday : 1981/1/1
Hometown : Tokyo, Japan

06/22/2014

Jリーグが望むクラブ松本山雅(後編)

前編に続いて後編。

スカイボックスを出てまず向かったのは、スタジアムのスタンド。

キックオフまで1.5時間はあるのに、すでに席についている人がかなりいる。

そしてスカイボックスから眺めて感じていたのだけど、やはりユニフォームを着ているサポーターが多い。

これだけ多くの人が着ているのは、レッズやアルビレックス、そして日本代表戦くらいじゃないだろうか。

とにかく深緑のユニフォーム普及率が高い。


そしてその背番号に目をやらないわけにはいかない。

多くの人が12番か3番を入れている。

12番というのはもちろん、第12番目の選手という意味を込めたサポーターの番号。

3番は、J1横浜マリノスからやってきて、山雅を盛り上げようとしてくれたかつての日本代表、故松田直樹選手のもの。

練習中に倒れ、帰らぬ人となってしまったことは、日本中にショックを与えた出来事だった。

しかし、当時まだJリーグ入りすらしていないクラブへ、サッカー人生投げうってやってきてくれた英雄を、このクラブのサポーターは忘れていないのだ。

そして今は、この番号を松本出身選手である田中隼磨選手が引き継いでいる。

クラブとしても、サポーターとしても、この番号に強い思い入れがあるのが良く分かる。


これはオレの目線から見ると、すごく大切なこと。

半永久的に続く存在(番号)があることは、サポーターが選手依存ではなく、クラブへアイデンティティを持っている証拠だから。

サポーターは、もちろん山雅の選手は応援する。

しかし、選手ありきではなく、クラブありきなのだ。

これは他の日本のクラブではあまり見られない光景。

正確には、スター選手のいるJ1では少なく、逆にJ2クラブの方が多く見られる光景かもしれない。


そしてもう一つ。

日本のクラブは選手の名前入った横断幕が多い。

これは選手個別のチャントも同様のことが言えるが、とにかくこれらは、個人を応援する存在になりかねない。


この点で言うとヨーロッパは、少なくともドイツは、選手個人名の横断幕やチャントはほとんどない。

サポーターはあくまでもクラブをサポートする存在、だからサポーターであり、自分が応援するクラブの選手だから応援する、というのが彼らの考え方なのだ。

横断幕に書かれることも、クラブへの忠誠や誇り、メッセージ、そして自分たち(サポーターたち)の存在を示すものが多いのだ。


その点で言うと、山雅はそれが多く見られる。

選手名もあるが、大きなスローガンの横断幕も多く見られた。


スタンドから外に出て見ると、これまた多くの人。

たくさんのお店が出店していて、どこも賑わっている。

さながら、縁日かお祭りのようだ。

その雰囲気があるからか、はたまた、そこにいる人たちがその雰囲気を作っているのかはわからない。

ただとにかく、どこか心躍る空間があり、その縁日感というか、お祭り感に惹かれてしまう。

中でも大行列を作り、人気を独占していたのがこちらのケバブ屋さん。

ドイツではそこら中にあり、オレにとっては馴染みのあるケバブだが、どうやらこのお店はうまいことやってるんだな、なんて思ったり。

ここでもやはり目に付くのは12番のユニフォーム。

おじいさんやおばあさんまで深緑のユニフォームを纏い、12番を背負っている。


このお祭り感、皆さんに伝わるだろうか。

そしてここからもアットホーム感が伝わってくる。

その温かい雰囲気を感じるのは、関わっている人たちみんなが山雅愛を持っているからだろう。

山雅が好きで応援に来るサポーターを、多くのボランティアが迎え、そして多くの飲食関係者もおもてなししているのだ。

なんだかこっちまで自然に笑顔になってしまう、そんな魅力がある。

そしてサポーターたちが座るバックスタンドへ戻って見るとびっくり。

まだキックオフまで1時間以上あるのに、もうギッシリ。

ゴール裏ももうギッシリ入っている。

バックスタンドからゴール裏へスタンドを歩いていくと、拡声器を持った数人がチャントのリードを始めた。

「いくぞー、応援するぞー!!」

というウルトラス(熱狂的サポーター)感とは少し違い、

「今日もみんなで盛り上げていきましょーね!」

という、ここでも感じる温かさ。

そして全体がこれに呼応する感じがまたすごい。

そんなこんなで、キックオフ1時間前にはチャントが始まったのだ。

ピッチではようやくGKがウォーミングアップを始めたくらいなのに、サポーターからは応援歌が聞こえる。

こんな光景、ドイツでもなかなか見られない。

ドイツでは1時間前はまだ席にはつかず、ビールを飲んで談笑している人が多いのだから。


しかし山雅は違う。

あとで知ったが、これはサポーターとクラブ(選手)の意見交換の中で、ウォーミングアップ中も応援の声はよく聞こえる、というものを汲み取ったものらしい。

そんなに聞こえるのなら、ウォーミングアップから応援しようじゃないかということで始まったんだそうな。

サポーターも選手も、試合キックオフに向けて、徐々にテンション作っていくことができるし、相手チームにもいいプレッシャー掛かるわけだ。

なるほど、選手目線とサポーター目線は違うが、お互いを知る努力をすることで双方にとってプラスになっていることがわかる。

素晴らしい。

そのあと、神田さんから電話が来たので、彼が担当しているテントに行ってみる。

すると彼はここでも挨拶を続けていた。


正直、かつて選手としてプレーしていた人間が、ここまで身を粉にしてクラブの職員として働く姿には感銘受けた。

選手のセカンドキャリアと言ってしまえば簡単だが、ここまで受け入れてしっかり出来る人はそう多くないだろう。


そんな話をすると、

「よく言われるんだけどね。オレは一度サッカー界から離れて、不動産屋の営業をやってたから。だから結構普通に受け入れられているところはあるかもね。」

と、笑って言っていた。

が、それだって凄いことだ。

きっと彼の人間性と、このクラブの魅力がそうさせるのだろう。

そう思えてしょうがなかった。

試合はというと、北九州が1-0で勝利を収めた。

オレは前半はスカイボックスから、後半はメインスタンドに降りて観戦していた。


山雅としては久々の敗戦。

結果は残念だったが、オレにとっては試合の終盤の応援がとにかく印象的だった。


観客から、ワンプレーワンプレーに素早いリアクションがある。

周りを意識してあまり感情が出ない日本人において、まるで自分の子供の試合を見ているような雰囲気、というか。


どこのクラブでも、ゴール裏にはそういう熱はある。

しかし、メインスタンドに座っている人たちからもそのリアクションあるということは、正直日本では稀なことだと思う。

きっと日本代表の試合くらいじゃないだろうか。

前編でも書いたが、このクラブのサポーターには、山雅しかしらない人たちも多くいるのだ。

逆に言うと、山雅だけで十分、山雅があるからスタジアムに足を運んでいるとも言える。

だからこそ、相手が強いか弱いかではなく、山雅のプレーに一喜一憂しているのだ。

ふと横に目をやると、車椅子のエリアにあるおばあちゃんが来ていた。

おそらく、90歳近いだろう。

正直、サッカースタジアムには、滅多にいない年代の方と言える。

そのおばあちゃんが、山雅のプレーを見て、拍手し、ミスに「あー!」と嘆いているのだ。

すぐわかった。

あ、この人にとって、山雅の試合を見るのが楽しみなんだな、ということが。


これって本当に凄いこと。

そんな年代の人たちまで巻き込めてしまうなんて。


山雅の盛り上がりの要因を、大月社長に伺ったことがある。

一体どんなことをしたんですか、って。

そしたら、彼ははっきりと答えた。

「正直、僕たちは何もしてないんだ。サポーターの皆さんが、クラブ育て、サポーターを増やしてくれたんだ。」

と。

何もしていない、わけない。

クラブは、サポーターを受け入れ続けてきたのだ。

サポーターの思いを、クラブの思いとして汲み取り続けてきたのだ。


社長自ら、毎試合サポーターを挨拶しながら出迎えるなんて、よっぽど器が大きくないと出来ることじゃない。

サポーターあってのサッカークラブであることをトップの人間が理解していることは、大きなアドバンテージである。

分かっているフリは出来ても、実際実行出来るということは容易ではないことだから。


トータルで見て、このクラブは全ての人からクラブ愛を感じた。

もちろん半日で全部わかるわけはない。

改善すべき点もあるとは思う。


でもそういうことではなく、このクラブはJリーグが掲げる理想の形に近いのだと思う。

ヨーロッパにもない、日本らしい素晴らしいスポーツコンテンツを作りあげていると言える。

一言で言えばまさに、“おもてなしのクラブ、松本山雅”ということだ。

今、J2で3位につけている松本山雅。

これから後半戦が大切になってくる。

いずれにしても必ず近い将来、J1には上がるクラブだろう。


しかし、これまでは右肩上がり一辺倒できた山雅は、J1では苦労するだろう。

選手の補強や入れ替えもたくさんしなくてはいけない。

ただ一つ忘れないで欲しいことは、自分のクラブからスター選手を育成することだ。


サポーターらにとって、松本山雅は唯一無二のクラブ。

山雅の試合は“息子の運動会”なのだから。

だからこそ、山雅育成の出身選手の存在は、その象徴的な存在になるはずだ。


そしていつか、山雅から日本代表選手が生まれるようになったとき、山雅しか応援していなかったおじいちゃんおばあちゃんが、サムライブルーのユニフォームにも興味を持つのかもしれない。

なんせそれは、“息子”の晴れ舞台なのだから。


そんな日が来れば、日本のサッカー文化はもっと根付くだろう。

そして、そんな人たちに応援される代表チームも、きっともっと強くなれるだろう。

そんなことまで考えたら、松本山雅というクラブが今後どうなっていくのか、本当に楽しみでしょうがなくなった。

ワクワクが止まらない。

これからも動向を追っていこうと思う。


皆さんも是非、そんな松本山雅を観戦してみて欲しい。

その上でこのコラムを読み返してもらったら、また感じることがあるかもしれない。


とにかく実りある松本出張でした。

神田さん、大月社長、その他関係者の皆さん、どうもありがとうございました。

また、松本に行くことを楽しみにしています。

松本では、多くの場所が、これで出迎えてくれる。

とても良い。

「頑張るときはいつも今」

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