鳥肌クラブ松本山雅(前編)
サッカー関係者なら一度は聞いたことがあるかもしれない。
今、J2に他とは一線を画するクラブがある。
長野県の松本市をホームタウンとするクラブ、松本山雅FCがそれである。
県リーグから着実に階段を上り、J2にまで上り詰めてきて、現在リーグが半分終わって3位につけている。
首位と2位が今季J1から降格してきたベルマーレとジュビロであることを考えると、昨季から所属のクラブの中では堂々のトップに立ち、J1降格クラブに真っ向から食らいついていることになる。
そもそも、オレがなぜ松本まで足を運ぶことになったか。
それはこのクラブの取締役になっている方が、オレの群馬時代のチームメートという縁。
このブログでも書いたことがあるけど、山雅さんは積極的にフロントの方々の海外研修などを行っていて。
2年連続でデュッセルドルフに来てくださったこともあり、今度はオレがお邪魔させていただこうと。
「来れるなら是非試合のあるタイミングで、うちのホーム試合を見て欲しい」
熱烈な(半ば強引なw)誘いを受け、スケジュール調整したことは、もはや今から考えれば大正解。
やはり百聞は一見になんとやら。
これまでにもサッカー関係者として、それなりに日本の試合を見に行かせてもらってきた。
それは日本代表戦然り、J1、J2、JFL、地域リーグ然りである。
そしてこの10年近くたつドイツ生活の中でも、プロからアマの様々なリーグの試合を見てきた自負がある。
ドイツだけでなく、オランダやベルギー、イタリアなんかのサッカーも見ることがあるし、CLの試合も有難いことに何試合も見ている。
「見ている」というのはもちろん、スタジアムで生で見て「体感している」という意味。
そんな、それなりに経験があるオレが、生意気ながら山雅の試合に行ってみて、、、興奮が止まらなかった。
この感情は隠さずにしっかりと書いておきたい。
あまりにも感じたことが多いので、ちょっと2回に分けてリポートする。
珍しく、コラム調で書いているのも、それくらい是非皆さんに知って欲しいから。
この日は土曜日のナイター。
相手はギラヴァンツ北九州で5位と好調。
一方山雅もここ8試合負けなしが続いている状態だという。
そんな情報はあまり知らないまま、まずは新宿からスーパーあずさに揺られて2時間半、松本駅に到着。
ドイツと日本の間を11時間移動しているオレにとって、2時間半なんてあっという間。
変わりゆく窓からの景色を見ていたら、あっという間に長野にいましたよ、って感じだった。
松本に降り立つと、日射しは感じるものの、やはり少し標高が高いからか、風が心地よい。
駅を出ると、アルウィン行きの無料シャトルバス乗り場の表示。
わかりやすいが、この辺ではまだ、山雅の熱はわからない。
ただ、キックオフまで2時間半あるのに、バス乗り場には緑のユニフォームを身に纏ったサポーターの姿が、決して少なくない。
そして満員のバスに揺られて30分。
座っていたからいいけど、これは正直なとこ、やはり少し遠い。
高い建物がない松本において、駅を出発してからなかなかスタジアムが見えなかったのは少し残念。
なんて思いながらスタジアム、アルウィンに到着。
駐車場からアルウィンに向かって歩いて行くと、その辺一帯は他のスポーツ施設もあり、たくさんのゴルフ場があることもわかった。
後で聞いたが、すぐ横には空港があり、航空法の関係でアルウィンは少し掘って作ったという。
メインスタンド以外に屋根がないのが残念。
この日は天気が良く、オレはスカイボックスで試合観戦させていただいたが、雨が降っていたら、サポーターは辛いなと。
オレがアルウィンについたのは17:15くらい。
キックオフまでの19:00まではまだ1時間半以上ある。
そこでまず、驚かされる。
なんとまあ多くの方がすでにアルウィンに到着していることか。
この日の観客数は約11300人だったけど、すでに数千人は来ていたことだろう。
1時間半以上前に。
そしてアルウィンの周りにはいろいろな人たちが働いている。
飲食店関係は非常に大盛況で、どこの店にも列が出来ている。
一種、町内会のお祭りに来たような活気すら感じられた。
人権保護のアンケートを取るボランティアの人たちの活動にも、サポーターらが積極的に参加している。
それ以外にも聞くと、毎試合130人くらいのボランティアスタッフが働いてくれているという。
ボランティア“チームバモス”には200人くらいが登録していて、中には東京から来るって人もいて。
なんというクラブだ。
でも、それも理解出来る。
東京からでもここに来て、ここの人たちと交流し、一緒に仕事して勝利を分かち合いたい、そんな空気がある。
とにかく誰もが笑顔だ。
この試合を見に来ることが楽しみなんだろう。
彼らの日常の中に、大切なイベントとして組み込まれていることが見て取れる。
そして、お年寄りがめちゃくちゃ多いことにも驚いた。
サッカーのユニフォームなんて、きっと1着しか持っていないんだろう。
その1着が、山雅のユニフォームに違いない。
これはあとで聞いた話だが、日本代表のことは全くわからない、サッカーもよくわからない、でも山雅が好きで毎試合来ている、という方が少なくないんだと。
それにも納得出来る。
なんというか、とにかく山雅の試合へ、孫や子供の運動会を見に行くような感じで来ている方達がたくさんいるのだ。
いい意味で、“ファミリー感”がすごい。
そしてオレの元チームメートの神田さんと再会。
このクラブの営業として松本中を駆けずり回り、スポンサー獲得に奔走している男。
そしてその横には、クラブの大月社長も。
クラブの顔と言うべき人間が、スタジアムの周りで、来場するサポーターに挨拶している。
そして本当に多くの方が、笑顔で挨拶を交わし、中には軽い会話もしていく。
顔の見えるフロントほど信用出来るものはない。
このクラブは、サポーターに信用されている。
それをこの光景で感じることが出来た。
とりあえず、大月社長の案内でスカイボックスに上がり、上からアルウィンを眺めて見る。
すでに多くの人たちがスタンドに入っている。
グラウンドレベルでは、人権保護の表彰などを行っているようだ。
サッカー専用であることが、このクラブの一体感を高めているんだろう。
そんな風に思えるアルウィンは、だからこそ屋根がないのが残念だと改めて思う。
聞くと、屋根を付ける案もあるが、やはり航空法の制限や、予算的な部分があるらしく、簡単ではないらしい。
ここでクラブの関係者らに挨拶をしたところで、オレは自分の好奇心を満たすべく、自由行動を開始。
「ちょっとぐるっと見てきます」
と言い残し、アルウィン探検をスタートさせた。
後編に続く。